1-11 Dragon The Festival

アルバム「Childhood’s End」発売一ヶ月後の1985/7/21、「Dragon The Festival (Zoo Mix)が12inchシングルとしてリリースされた。
「Childhood’s End」収録曲のリカットだった。


12inchシングルはLPと同じ大きさの版面をシングルとして用いたもので、通常のシングルよりも長時間・高音質の録音が可能なメディアであり、80年代半ばに日本で流行した。
しばしばリミックス版などに用いられたが、TM NETWORKも12inchならではの凝ったアレンジを「Dragon The Festival」で試みる。


TMはこの後シングルとして、「Your Song」「Come on Let’s Dance」をリリースするが、この3枚はいずれも12inchの形態だった。
12inchは遊びの多いTMサウンドに適したメディアだった。
またこの時期に3枚の12inchシングルをリリースし続けたことが、TMのサウンドが音の遊びの要素を強めた一要因になったといえなくもない。


12inchシングルはLPと同じサイズなので、ジャケットも見栄えがする。
「Dragon The Festival」のジャケットでは、黄色い渦巻きのある絵を背景に3人が写っている。
3人は片手を上に上げる独特なポーズを取っている。
このポーズは後の「Dragon The Festival Tour」のライブパンフレットの表紙のイラストに描かれる人(または神)と同じだが、その意味はよく分からない。
なお小室は同時期の他の写真・映像と少し違い、ワイルドな雰囲気の髪型である。




このシングルについて取り上げる前に、その元になった「Dragon The Festival」のオリジナルバージョンについて触れておこう。
この曲は「Childhood’s End」で数少ない盛り上げ曲であり、先行シングル「アクシデント」と並び、アルバムの代表曲の位置を占める。
ライブで演奏されることの少ない「Childhood’s End」の曲の中では例外的に、ライブ定番曲としての地位をFANKS期を通じて確保し続けた。


作詞・作曲は小室哲哉で、歌詞は理想郷エルドラドを求めてアマゾンをさまよう冒険家たちを扱ったものである。
公表はされていないが、小室の中にはストーリーがあるらしい。
かつて小室がインタビューで、そのストーリーを2時間くらいかけて話し込んだら、ウツと木根は着いていけず眠ってしまったという。
「Childhood's End」のタイトルがArthur C. ClarkのSF小説から来ていたり、「Dragon The Festival Tour」が未来小説「Electric Prophet」に基づいていたことから分かるように、この頃の小室はSF小説にはまっていた。
「Dragon The Festival」も、その一環で生まれた作品として考えることができるだろう。


おそらくこの曲は、小室としてもっとも関心の強い世界を描いたものだったが、「Childhood’s End」の中では明らかに浮いている。
それは曲調についてもそうだが、歌詞について特に著しい。

輝くよアマゾンからの風 あふれる水も踊る大地も
何もかも素直に感じられる the biggest view
何千マイルも深い森の 僕らは天を仰ぐ旅人
伝説の行方追いかけるよ journey to saga
やぶれかけた一枚の エルドラド描くピサロの絵
幾千の時を経て 再び夢かなうよ
全ての悲しみを エルドラド空へ消しさる
もどり光り始める 歴史の中のフェスティバル


現実的な歌詞世界の中で、これだけファンタジーである。
しかもこっそりと入っているわけではなく、代表曲としての扱いである。
ただしアルバムが現実的な作風になったのは、おそらく小坂洋二が指示した方針転換によるものであることは、以前触れた。
「Dragon The Festival」は、アルバムの中ではむしろ小室が当初作りたかったものを残しているのかもしれない。


この曲のイメージはファンタジーと書いたが、アドベンチャーの要素も強い。
この時代だと、着想元は「インディ・ジョーンズ」(1981年公開)あたりかもしれない。
歌詞では、主人公はピサロが描いたエルドラドの地図を手に入れ、これを元にアマゾンの秘境に旅に出ることになる。
その目的地のエルドラドは神である竜(Dragon)によって守られており、容易には入れないようである。
(歌詞の中ではエルドラドに入った描写はない)
小室はその竜との出会いに至る冒険を、祭に見立てて「Dragon The Festival」と呼んでいるのだろう。


曲の長さは7分を越え、当時の邦楽界では異例である。
長い間奏に加え、歌は3番まである。
小室はお祭りとアマゾンのイメージで作ったという。
イントロはサンバ風のパーカッションで始まるラテン系の雰囲気だが、正直に言って、自分としてはこのイントロはあまり好きではない。
なお後に浅倉大介が「Landing Timemachine」で、サンバ色をより強調したアレンジを発表している。


イントロにパーカッション以外の楽器が加わった後は、「Come on Dragon The Festival! Round & Round Shout it Loud!」の歌詞を繰り返す頭サビが入る。
その後は間奏を挟んで1番が始まるが、1番もまたサビで始まる作りである。
1番の前の間奏は「Zoo Mix」やライブでも使われるが、結構好きなフレーズである。
また1番の頭サビ(2度目のサビ)の後に続くAメロのメロディラインも好きで、希望にあふれた冒険家のポジティブな気持ちが伝わってくる。


逆にサビについては、実はあまり好きではない。
「Rainbow Rainbow」の曲で見せたほどの気持ちよさを感じない。
お祭りの雰囲気が伝わってくるオケではあるが、全体としてイマイチ感がぬぐえない。


ところが、この曲は化ける。
大化けする。
1度ならず2度も3度も。


繰り返すと、自分としてはこの曲は全体としてイマイチと思う。
しかしそれにもかかわらず、この曲は何か正体の分からない中毒性があり。それは化けるたびに強まっていく。
なぜこんなに気になるのか分からないくらい、とにかく気にかかって仕方が無い。
TMの曲の中でも、もっとも不可解な曲である。


その「化け」の第一段階が、12inchシングル版「Zoo Mix」である。
「Dragon The Festival(Zoo Mix)」は、原曲と比べて聞くとかなり力を入れて作っている印象を受ける。
TMはこれ以前に、「1974」でもすでに楽曲のリミックスを行なっていたが、それは音の追加や撮り直しといった類である。
それに対して「Dragon The Festival (Zoo Mix)」は、メロディこそ同じだが、オケはもはや原曲とまったく別物となっている。
ライブ「Electric Prophet」で見せたリミックス作業を、スタジオレコーディングにも応用したものと言えよう。


小室はTMの「Classix」やTKプロデュース期の作品(特にtrf)で知られるように、様々なリミックスバージョンを発表している。
リミックスへの傾倒は、小室の一つの特徴と言って良い。
80年代後半の12inchシングルブームと表裏の関係にあった日本のリミックスブームはやがて沈静化するが、小室は90年代にもこれに凝り続け、一つのスタイルを確立するに至る。
「Dragon The Festival (Zoo Mix)」は、その先駆けだった。


全体として「Childhood’s End」の曲調はFANKS期に受け継がれなかったが、「Dragon The Festival (Zoo Mix)」で見せた大胆なリミックスの姿勢は、その後も受け継がれた。
「アクシデント」「Rainbow Rainbow」「Childhood’s End」をつなぐ音だとしたら、「Dragon The Festival (Zoo Mix)」は、FANKS期との間をつなぐ音だったとも言える。


小室によると「Zoo Mix」は、Duran Duranの「The Reflex」のリミックスに触発されたものだという。
なお「The Reflex」のリミックスを手掛けたのは、Nile Rodgersである。
小室は1989年に、「Dress」でTM作品のリミックスをNileに依頼するが、それはおそらく本作が念頭にあったのだろう。


また小室は「Dragon The Festival」制作後に「ネバーエンディング・ストーリー」を見て、共通するものを感じたと述べている。
「ネバーエンディング・ストーリー」の日本公開が1985/3/16であることを考えると、おそらく小室が言っている「Dragon The Festival」はアルバム版のことだろう(「Childhood's End」は1984年12月から1985年4月にレコーディング)。
ならばその後制作された「Zoo Mix」には、「ネバーエンディング・ストーリー」のイメージがいくらかの影響を与えているのかもしれない


本作で強調しなくてはならないのは、サンプラーの使用である。
「TM VISIONⅢ」の冒頭では、スタジオで小室と小泉洋が「Dragon The Festival (Zoo Mix)」を作成する風景を見ることが出来る。
この風景は、サンプリングボイスが初めてTMで用いられた場面として貴重である。


特にリニューアル以前のTMでは、サンプリングボイスの使用がトレードマークでもあった。
世間一般では1989年の「Get Wild '89」のイメージが強いが、その始まりは「Dragon The Festival (Zoo Mix)」である。
この時に用いたサンプラーはEMULATORⅡだが、これは同年の「Vampire Hunter "D"」および「Dragon The Festival Tour」でも使用された。
このEMULATORⅡ導入の一つの到達点が、次のシングル「Your Song」だった。


この頃小室はPet Shop Boysにはまっていたこともあり、彼らがヒット曲「West End Girls」で使ったEMULATORⅡを自らも導入し、音楽に活用することを構想した。
当時EMULATORⅡを使っていたミュージシャンとしてはTrevor Hornもおり、その影響もあったという。
小室によれば、コーラスをサンプリングして手で弾いてみたかったとのことである。


なおEMULATORⅡは経費で購入したのではなく、またも小泉洋に私物として買ってもらったものだった。
ただEMULATORⅡの操作は当初小泉が主に行なっており、その導入も実質的には小泉が主張したものかもしれない。


「Dragon The Festival (Zoo Mix)」を聞いてみよう。
まず重厚なイントロに驚かされるだろう。
オリジナルが祭りの雰囲気を表現しているのだとすれば、「Zoo Mix」はアマゾンの大自然の壮大さを表現しているのだろうか。
正直言ってここだけで、このミックスはオリジナルを超えている。


続けて例のサンプリングボイス。

Come on Dragon The Festival !
Round & Round… Round & Round RoRoRoRoRoRound &…
CoCoCoCoCome on Come on… CoCoCoCoCome on Come on… 
RoRoRoRound &… Dragongongongongon…


ここは盛り上がる というか、ここが一番盛り上がる(歌の前だが)。
歌が始まってからのオケも、原曲より締まっている。
パーカッションやピアノのバランスもちょうど良い。
間奏も音が逆回転して止まったり、遊び満点。
全体として、とにかく豪華という印象を受ける作りである。


小室もこの「Zoo Mix」は自信作だったようで、雑誌のインタビューでも自身の様子がうかがわれる。
当時自分のやりたいことを出し切ったという自負があったのだろう。
以後小室がTVやライブで「Dragon The Festival」を披露する時は、もっぱら「Zoo Mix」をベースにアレンジして演奏した。


この曲の真骨頂はライブバージョンである。
以後この曲はライブで数段階の進化を遂げ、「Zoo Mix」を超えるものすごいアレンジとなり、FANKS期を通じてTMライブの代表曲となるのである。
この点については、それぞれのライブの時に取り上げることにする。


この12inchシングル、実は両A面シングルだった。
もう一曲は「1974(Children’s Live Mix)」だった、
これは「Electric Prophet」で演奏したライブバージョンである。
これを収録したのは、秋に予定されていた「Dragon The Festival Tour」への動員も想定したものと思われる。
局の長さは原曲の約倍の8分で、「Dragon The Festival (Zoo Mix)」の7分を超える。
ただしライブ音源ではなく、ライブバージョンをスタジオで録音したもので、ライブ感はイマイチである。


この曲もアレンジが原曲と大きく様変わりしており、特にイントロがものすごいことになっている。
ライブっぽさを出すためか、ボーカルにエフェクトがかかっている。
ライブアレンジについては、「1-7 Electric Prophet」で触れたので、ここでは詳しくは触れない.。
個人的にはライブ音源をそのまま収録するか、スタジオ録音にするならボーカルを普通に収録して欲しかった。


このシングルはオリコン92位の成績で、今までのシングルよりは多少とも上位に食い込むことが出来た(「金曜日のライオン」=ランク外 「1974」=97位 「アクシデント」=99位)。
アルバムからのカットで、しかも高価格の12inchシングルだったことを考えれば、まずまずの成績だったと言って良いだろう。
当時としてはかなり実験的な音だったにもかかわらず、ファンに受け入れられたことは、小室がさらに実験的な作りの「Your Song」を発表する前提となったと思われる。

(2006/9/7執筆、2006/12/8・2008/9/28・2016/12/16・2022/10/11加筆)

DRAGON THE FESTIVAL
エピックレコードジャパン
1989-09-01
TM NETWORK

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この記事へのコメント

iyotae
2014年05月25日 18:03
左手をあげているのは小室さんだけでは?
今日は何度CHILDHOOD'S ENDを聴いたかわかりません。
家を大捜索していたら、TM以外にも浅倉大介さんのD-trickやROD STEWARTまで出てきました。
10代の頃のものなんて何も持ってないと思ってたのに…
極め付きはリズレのツアーパンフ!
キャロルの箱の中にCDが入ってないというオチもありましたけど。。。
どうでも良いことばかりで消していただいてもかまいません。失礼いたしました。
iyotae
2014年05月25日 18:26
嘘つきました。
十代だけでなく、二十歳超えのものあります。
青い惑星の愚か者
2014年05月26日 02:54
あ!本当だ!
「左手」を「片手」に直しておきました
ご指摘ありがとうございます

ロッドステュアートのCDまであるって、明らかにウツの影響ですね(w
ツアーパンフは大事ですよ!
ちゃんと保管してください
私はパンフも含めグッズは一切買わない主義だったので、今となってはしまったなあと思っています
haru
2020年06月24日 16:43
「Dragon The Festival」と「1974」、私が最初に耳にしたのは共にこの12インチシングルに収録されたバージョンでした。

 「Gift for Fanks」でZoo Mixを初めて聴いたとき、「YOUR SONG」に続いてこれまたスゴイな…、としか言葉が出ませんでした。あと「PASSENGER」「YOUR SONG」と続けて聴いたからかサンプリングボイスの印象は強く残りました。(ただ実際の制作順とは逆に収録されているので、サンプラーの使い方の進化までは気がつきませんでしたが…。)

 その後「CHILDHOOD'S END」を購入してドラフェスの最初のバージョンを聴くことになりますが、個人的にはこちらも好きだなぁ。アルバムリリースからわずか一ヶ月で大幅にリミックスされたZoo Mixが出て、その形がライブの定番となったので、TMメンバーですら原形はどうだったかなんて思い出せないかもしれません。そんなある種マニアックとも言える最初のバージョンに私は逆に惹かれるところがあります。

 そしてChildren's Live Mixは私が中1のときにラジオで聴きました。田舎に住む子どもだった私にはスゴく衝撃的だったし、今聴いてもあの頃感じた歌に入るまでのワクワク感・高揚感はホントたまりません。12インチシングル3枚が8cmCD化したとき、他の2枚にはまだ聴いたことが無かったバージョンが収録されていたにもかかわらず、Children's Live MixをCDで聴きたい、という気持ちが強かったので真っ先に購入しました。それぐらいお気に入りのバージョンです。
青い惑星の愚か者
2020年07月05日 17:56
私もZoo Mixを先に知ってたから、オリジナルを聞いた時にはイントロであれ?と思いました。
CAROLの頃のラジオで木根さんがゲストの時にオリジナルをかけたら、「こんな牧歌的な曲だったんですね。ライブと全然違う」て驚いていました。
1974 Children's Live MixはCD化の時に初めて聞きました。こんな初期からすごかったんだなあて思いますよね。

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