2-17 Self Control (Single)

「Self Control(方舟に曳かれて)」は、1987/2/1にリリースされたシングルである。
1986年9月から12月にかけてレコーディングされた4thアルバムの楽曲の中から、先行シングルとして選ばれリリースされたものである。


この曲は、当時十代の音楽に関心のある層にTM NETWORKの名を決定的に広めた。
本作は売り上げ枚数の面ではまだ大したことはないが、後々までの知名度などを考えても、この曲を以ってTMのブレイク、あるいはブレイクが決定付けられたと言って良い。
現在に至るまで、TMの代表曲の一つである。


ジャケットはウツを中心に、左に木根、右に小室が立ち、それぞれが別々の方向を向いている。
正面を見据えているのがウツで、小室もなかなか良い表情で映っている。
悲惨なのは木根だ。
サングラスをはずしている稀有な写真だが、後ろを向いて顔が見えない。
ある意味で、ジャケット表から抹消された「1974」よりもひどい扱いである。




ジャケット写真はモノクロ。
そこに飾り気のない字体で単色の黄色で「Self Control」、紫で「TM NETWORK」が書かれている。
「Come on Let's Dance」「Gorilla」などが凝ったロゴを付け、合成写真も使って派手な雰囲気を出していたことと比べると、方針がかなり変わっていることに気付く。
この雰囲気は「Self Control」「Get Wild」まで引き継がれる。
自分としては、当時のSF的な雰囲気ともマッチしていて、かなり好きなジャケットである。


レコーディングでは、ギターにパール兄弟の窪田晴男、ドラムに山木秀夫が参加した。
小室はこれ以前、別の曲(非TM名義の曲だろう)のレコーディングで窪田と仕事したことがあり、その時にかっこよいという印象が残っていたことから、依頼したものらしい。


この曲の特徴は、音の少なさである。
「Come on Let's Dance」と比べると、生音の少なさに気が付く。
曲は徹底的に単純化されている。
実はこの曲は、作成当初にはもっと多くの音が詰め込まれていた。
デモ音源では生音が強調されており、完成版と比べると「Gorilla」期の雰囲気が強い。
一番近いのは「Harlie Good-Bye」だろうか。
「Self Conrtrol」の商品版は、その中から一部分だけを取り出して曲にしたという印象である。


小室はこの時は、意識的に音数を減らし、最後まで音を加えたい欲求にかられながらも我慢した。
これは「Gorilla」の時にも心がけたというが、それを遥かにしのぐ単純さである。
小室の場合、自然に曲を作るとむしろ複雑な構成になる傾向があると、小室自身が語っている。


音の数が減った分、シンセのリフが非常に目立っている。
Bメロで変化があるものの、このリフはイントロ・Aメロ・サビのオケで用いられている。
このリフは、サビのメロディ以上に印象的である。
小室はこの頃、Van Halenの「Jump」のように、メロディではなくリフでヒットする曲を意識的に作りたかったという。
シンセの決まったフレーズで何の曲か分かる曲を高校生の頃から作りたかったが、それがこの時にできたとのことである。


小室はたまに、意図的に単純化した曲を作ることがある。
そしてそのような時に、小室は後々まで覚えられる名曲や、自らの運命を変えるようなヒット曲を生み出すことが多い。
「Seven Days War」「EZ Do Dance」などがその例として挙げられるだろう。
実際に小室は、この曲が受けたことが自信になり、その後の曲作りへの大きな転機になったという。


実は当初「Self Control」は、シングルとして作ったものではなかった。
しかしこの曲を聞いた雑誌の記者がシングルに良いのではないかと発言したことがきっかけとなり、シングルに選ばれたという。
当初は「Don't Let Me Cry」をシングルにする案もあり、特にウツは「Don't Let Me Cry」推しだった。


ライブでのこの曲の一つの見所は、サビの「Self Control」のコーラスである。
これは木根の声をサンプリングしたものである。
ここはBugglesの「Video Kills The Radio Star」のコーラスからヒントを得たらしい。
自らの内側で叫んでいる雰囲気を表現したのだという。


「Self Control」のコーラス+ワンフレーズの歌詞(「今までのぼくは」等)の組み合わせを繰り返す、単純でスピード感のあるサビは、大変覚えやすい。
この頃の曲では、「Maria Club」「Get Wild」も同様の構成である。
このサビの部分と同じリフはイントロ~Aメロのオケでも使われており、曲全体を通じて頭に残る。
現在までTMの代表曲とされるゆえんである。


この曲の魅力は、音だけではない。
TMの代表曲として好まれている理由のかなりの部分は、その歌詞であると思う。
作詞は前作「All- Right All-Night」と同様に、小室みつ子である。
今聞くといかにも80年代の10代向けの歌という内容で、恥ずかしさも感じないでもないが、当時の彼らのスタンスやファン層、あるいは時代を考えれば、最高の歌詞であると思う。

君を連れ去る車を見送って
追いかけることさえできなかったあの夜
全てを許す消えそうな横顔
窓ごしに映ってせつなく手を振ってる
言いたいこともうまく言えなかった
このままサヨナラをする訳にはいかない
心の中にたかまってくリズム
もう押さえることはできないさ

しばられたアダムとイブ 走り抜けたボニー&クライド
大切なあの子の目を   これ以上くもらせないで

Self Control今までのぼくは  Self Control本当の悲しみ
Self Control知らずにいたのさ Self Control君に会うまでは
Self Control自由のナイフで  Self Controlとらわれた心を
Self Control粉々にするさ   Self Controlバラバラにするさ


小室哲哉も当時言っているが、この曲によく歌詞を乗せたものだと思う。
若者に対して自らの解放を促す歌詞のスタイルは、「Gorilla」期の延長上にあるが、思いを寄せる女性が連れ去られるのを見過ごした自分に後悔し、新たな決意を胸に燃やす若者というストーリーを持ち込んだところに、「Self Control」の独自性がある。


これ以前では、「1974」「Confession」「雨に誓って」なども一定のストーリー性を持ち合わせていたが、これらは基本的にラブソングであった。
ストーリー性を持ったラブソングというのは珍しいものではない。
だが「Self Control」の場合、「Gorilla」期と同様にメッセージソングの性格が強い。
以後の「Get Wild」「Resistance」などもラブソングの要素を若干含みながら、基本的に「Self Control」と同様に、個別のストーリーとメッセージ性をあわせ持つ歌詞でヒットする。


TM的・小室みつ子的と言われる特徴としては、神話や欧米のカタカナ人名がよく登場するという点もある(「アダムとイブ」「ボニー&クライド」など)。
以後の作品では、「Be Together」の「カサノバ」や、「Ignition, Sequence, Start」の「テレス」「ディアス」なども同様の例である。
これは十代が受け入れやすい雰囲気を作るのに、一定の役割を果たした。


なお「Self Control」という抑制的なにおいのするタイトルにも関わらず、本作の歌詞はむしろ自らを解放するという内容になっている。
PVも管理された子供たちが解放されるストーリーになっている。
実は当初小室哲哉は「Self Control」というタイトルについて、目標に向かって我慢するというニュアンスを考えていたが、小室みつ子の解釈でこのように逆の方向性になった。
なお小室哲哉がこの曲名を考え付いたきっかけは、ラジオで受験に悩む受験生から葉書をもらったことであるという。


シングルのカップリングには、前作「All-Right All-Night」に続いてInstrumentalが収録された。
このテイクは一時期、「小室哲哉のSFロックステーション」オープニングで使われていた。
たただし単純なカラオケではなく、アウトロが歌入りの方と少し違っている。
歌入りの方は最後歌とともにフェードアウトで終わるのだが、Instrumentalはキーボードの音だけが残ってカットアウトする。
後にアルバム「Self Control」「Gift for Fanks」に収録されるバージョンでは、Instrumentalのオケに歌が乗ったアレンジになった。


このシングルは、チャートで33位を記録した。
「Come on Let’s Dance」の35位をしのぐ、当時の最高記録である。
しかもこのシングルは、3週間後にアルバム「Self Control」が発売したにもかかわらず、10週近く100位以内にランクインし続け、3万枚の売上を記録した。
実に「Come on Let’s Dance」の3倍近い成果である。


枚数の面では、まだ世間的には大した売り上げではないが、息の長い売れ行きは、やがて来るべきヒットの前段階である。
実際に「Self Control」と入れ替わりでランクインする「Get Wild」は音楽好きの層に留まらず、一般人の耳にも止まるヒット作となるのである。


「Self Control」は発表以後、1989年の「CAROL Tour」までは継続的に演奏された。
だが1987~88年の「Kiss Japan Tour」や1988~89年の「CAROL Tour」では一部のみの演奏となるなど、意外とリニューアル以前のライブでははしょられることも多い曲だった。
その後「Camp Fanks!! '89」「Rhythm Red Tour」ではセットリストから外されたが、1992年に「Tour TMN EXPO」後期のセットリストに加えられてからは、TMライブの定番曲となる。
現在では「Get Wild」「Be Together」と並んで、TMライブで盛り上がる曲の代表として扱われている。

(2007/4/25執筆 2008/10/22・2010/9/22加筆)

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この記事へのコメント

haru
2012年06月25日 19:32
「All-Right All-Night」で衝撃を受けた後次に私が聴いたのが「Self Control」でした。(ただ、まだ3人のビジュアルは目にしてなかったと思います。)

 「Self Control」を聴いて必ず思い出すのは、私が中学1年生の時(87年)の体育祭なんです。
 毎年恒例の種目として全学年の男子(田舎なので100人程度しかいませんが)は組体操を披露し、一方で女子は3曲の創作ダンスを披露していました。そこで「Self Control」に合わせて創作ダンスを披露していたわけです。
 でも具体的にどんなダンスだったかは全く覚えていません。(夏の終わりだったし、凝視するわけには…。)

 「この曲名を考え付いたきっかけは、ラジオで受験に悩む受験生から葉書をもらったこと」というエピソードは私も聴いたことがありますが、私の場合歌詞が胸に来るようになったのは、社会人になってからでした。学生時代に勉強していただけでは、社会では通用しないという現実を痛感した時に「Self Control」を改めて聴いて、歌詞に深く共感したことがありました。

 ところでこの曲のイントロで出てくる「チャ・チャ・チャーラ、チャラ・チャチャチャチャラ・チャラ・チャーラ」のフレーズは小室節の定番となりますが、翌88年小泉今日子さんに提供した「Good Morning-Call」にもイントロで使われています。これはアレンジャーが小室作だから、ということであえて使ったそうですが。
青い惑星の愚か者
2012年06月28日 02:45
Self Controlでダンスがあったんですか
リズムが安定しているから、たしかに踊りやすいかもしれませんよね

Good Morning-Callの話は私もどこかの記事で書きました
リアルタイムでこの曲を聞いていたし、その頃TMも好きだったんですが、作曲が小室さんだったことはHit Factoryで初めて知りました
あのイントロはアイドルの曲に使っても可愛くて良いですねえ
まさと
2013年03月09日 02:19
この曲のデモ、僕も持ってますが、全く近いますよね。GET WILD'89がそれまでのTM史上長いイントロ曲ですがSelf Controlのデモもかなりの長さですよね。もしも、デモとそんなに変わらずに作られていたとしたら、アルバムの印象もかなり変わったでしょうね。
青い惑星の愚か者
2013年03月10日 16:52
Self Controlのデモは、本当に試作段階だったんでしょうね
とにかく色々詰め込んでみて、その中からここだけ使って…という感じで作ったんだと思います
つうか、あれは事前に曲名聞いていないと、何の曲か気付きません(笑
エルレ
2022年01月05日 13:28
デモイントロのギターですが、Maria Clubにそっくりですね。最初聴いたときはMaria Clubだと思いました。デモなのにスタジオミュージシャンに弾いてもらって贅沢なデモだなーと思いながら聴いてました。

ご指摘となってしまいますが、Self Controlのコーラスですが、ライブでは木根さんほとんど歌っておらず、CRY-MAXまでは小室氏のサンプリング手弾きしかも口パク付き、以降は自動演奏と思われます。LAST GROOVEは葛Gです。木根さんはウツとのユニゾンで結構そこが好きで聴いてました。
青い惑星の愚か者
2022年01月27日 02:28
たしかにMaria Club要素もありますね。
イントロを聞くと、ドラムもギターも、ホントにTM?て思うくらいロックしていますが、Self Controlてこんな音になる可能性もあったの?て、意外に思います。
あと最初ラップぽく始まるのは、後にKiss Youの構想にもつながるのかもしれません。

ライブでの木根パートについてのご指摘、ありがとうございます。
確認してみましたが、たしかに私の思い込みだったみたいです。
当該箇所はさらりと消しておきます(笑)。

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