7-30 新機軸のウツ

TM35周年企画の最後を飾る「Decade」「All The Clips」のBlu-ray盤リリースが8/26に迫ってきました。
これに関わってotonanoのサイトでは、6月から関係者へのインタビュー記事が連載されてきました。
今まで掲載されてきたのは、エンジニアの伊東俊郎さん、ディレクターの山口三平さん、アートディレクターの高橋伸明さん、アナウンサー上柳昌彦さん、プロデューサー小坂洋二さんという面々でした。
あとは上柳さん1回と小坂さん2回分の記事が掲載されて、終わりとなりそうです。


小室さんの復帰作となった乃木坂46の「Route 246」、ダウンロード数もストリーミング再生数も好調なようです
もちろん今回はCDでのリリースがなく、配信限定であるというのが前提にあるのですが、ウェブニュースによれば、同じ配信限定シングルだった前作「世界中の隣人よ」と比べても1.9倍の数字みたいです。
ただデジタルシングルチャートでは前作が初動2.0万、今作は初動3.3万で、1.9倍にはなりませんが、ストリーミングも含めた数字でしょうか。
どの程度世間で注目されているのかは分からないのですが、復帰第一弾としては良い成果だったんだと思います。


一方で復帰第2弾の浜崎あゆみ「Dreamed a Dream」は、やはり配信限定でしたが、こちらは初動22位・5121DLで、乃木坂には及びませんでした。
前作「オヒアの木」よりは100DLほど多かったのですが、乃木坂と比べると顕著な増加はなかったといえます。


ただ私は曲としては「Route 246」よりも「Dreamed a Dream」の方が好きでした。
浜崎さんの歌がぴったりはまっているかどうかはともかく、乃木坂よりは合っているように感じます。
編曲者が違うので単純な比較はできませんけど(乃木坂は小室さん、浜崎さんは別の方)、そもそも小室さんが女性アイドルグループに提供してぴったりはまったと(私が)感じた曲はこれまでないです。
私の場合、小室さん+女性アイドルグループて、あまり響かないのかもしれないです。


個人的な感想はともかくとして、復帰はまずまずうまくいっていると思います。
予想していた文春のバッシングもないし、報道も概して好意的です。
周到な準備をして、各所に協力をお願いしていたんだろうなと思います。
復帰第3段の話はまだ聞きませんが、乃木坂の成果を見て次の構想を立てているんだろうと思います。


ウツと木根さんの「「SPIN OFF from TM」ライブ映像同時視聴ナイト」は、8/15まで全4回の放送が終わりました。
2人は色々と、昔の思い出を語ったりしてくれました。
なおニコニコ動画の有料会員の方向けには、2人と一緒にゲームできたりするコーナーもあったそうですが、私は無料分しか見ませんでした。


個人的には木根さんが「Fool On The Planet」のリプロダクション版「Where Are You Now」にがっかりしたと言っていたことが残念でした(「イーグルスになっていた」と言っていました)。
私はむしろ「Where Are You Now」の方が好きで、一度ライブでやってほしいと思っていたのですが、木根さんが気に入っていないなら、可能性はなさそうですね。
ウツは存在すら知らなかった(覚えていない)ようです。


なお本番組で広報されたtribute LIVEのライブblu-ray 4枚組は、FC会員限定版が9月上旬発送、一般向けが9/30発売とのことです


9/14からは「SPIN OFF T-Mue-needs」が始まります。
まだまだ先と思っていたら、もう一カ月切りましたね。
チケットはFC先行が終わって一般先行が始まっており、8/29からは順次一般販売も始まります。
今回はコロナウィルスによる入場数制限があり、やはり一般ではチケットはなかなか当たらないようです。
FCチケットを取れない方は、かなり厳しそうな感じです。


前回も書きましたが、このツアーは全公演がニコ生で有料生配信されます。
公演翌日までしか見られないという厳しい設定ですが、ライブの生配信てこういうものなのでしょうか。
1公演あたり4500pt(4500円)で、全公演(14公演)通し券63000ptという恐ろしいものも販売されています。
これを購入する猛者もいらっしゃるんでしょうね…。


今回は何を演奏するんでしょうか。
「Dragon The Carnival」で候補に上がりながら選ばれなかった「Castle in the Clouds」「Screen of Life」「Alive」なんかも演奏されるかもしれません。
特に「if you can」とか「STORY」とか、「Quit30」の曲で30周年ライブで演奏されなかった曲をやってほしいです。
もちろん古い曲も歓迎します(特にアルバム曲を!)。
「グリニッジの光を離れて」はやりますかね。


木根さんはyoutubeのユンカースチャンネルにて「きねさんかなさんのトーク&LIVE」全5回の配信を終え、8/14からは3回にわたり、朗読劇「ユンカース・カム・ヒア〜終わらない詩(うた)〜」を配信しました。
朗読劇には木根さんも出演しています。
木根さんは本企画に絡めて、テーマソング「音色」と挿入歌「きのうの夕ひ」を制作しました。
また8/22にはむさしのFM「川久保秀一のSaturday Music Flow」出演します。


以上、近況の整理でした。
では本題に入ります。



ウツ・木根はTM20周年企画の余韻冷めやらぬ中、2005年4月から「Spin Off from TM」を開催して、再びTMファンを集めた。
しかしこれは次のTMにつながる活動ではなかった。
TMの活動は、この時点では何も決まっていなかった。


本ツアーの先行企画とされた2003年の「triute LIVE」は、あくまでもTM20周年への架け橋という建前があった。
これに対して「Spin Off from TM」は、TM本体との関わりがほとんど語られることがなかった。
むしろ「tribute LIVE」とは逆に、TMの活動からソロ活動への架け橋としての性格が見え隠れする。
より直接的な言い方をすれば、TMファンにソロ活動を宣伝する機会としてのイベントである。
それはライブ中にウツ・木根・浅倉のソロコーナーが設けられていたことからもうかがわれる。


ウツは前章で触れた通り、「Spin Off from TM」の開催に合わせて、ソロ新曲の音源配信を開始した。
ツアーではその第一弾となる「Slash!」を演奏している。
「Spin Off from TM」の地方限定曲も配信が行なわれたが、それもウツが音源配信を積極的に活用しようと考えたことの一環である


ウツが2005年から音源配信に打って出た背景として、レコード会社との契約関係があったことが考えられる。
2002年以来これまで、ウツは吉本のR&Cから新作をリリースしてきたが、音源配信以後はR&Cとの関係はなくなった。


ウツのR&Cからの最後のリリースは、2005/3/23のベスト盤「Takashi Utsunomiya The Best 2000-2004」で、収録楽曲はTRUE KiSS DisC期・ROJAM期・R&C期の作品を対象としていた。
成績は99位・3700枚である。
2003年のフルアルバム「wantok」は47位・6300枚、2004年のミニアルバム「Overtone」は58位・4400枚だったが、「The Best」がこれらを下回る売上だったことを見るに、ベスト盤リリースに当たって一般に意識されるべきライトファンの購入はほとんどなかったものと見られる。


2004年11月の「Overtone」リリースからわずか4ヶ月後のベスト盤リリースは、かなり不自然なタイミングである。
おそらくR&Cとは2004年度(2004年4月~2005年3月)まで面倒を見てもらう約束があり(専属契約の有無は不明)、その間にR&C関係の音源(R&Cと資本提携をしたROJAMも含む)をまとめておこうと考えたのだろう。


ウツが音源配信を始めたのは、「The Best」リリースと同日の3/23のことだった。
以後ウツは月1回の音源配信をコンスタントに行ないつつ、CD・DVDは所属事務所M-tresの名義のインディーズ版でリリースし、タイアップが付いた場合に限って単発でレコード会社からCDを発売するようになる。
この間、特定のレコード会社と専属契約があった形跡はない。


CD販売に関して、インディーズ版の場合はCDショップでの取り扱いに制限ができるため、実質的にはFCでの固定ファン向け通販が中心とならざるを得ない。
ウツが音源配信に打って出たのは、この閉塞的な状況を打開するためだろう。
結局ウツも、小室が5年前にROJAMで試みた活動と近いものを目指すことになったが、家庭向けのインターネットサービスの質が大きく向上し、音源配信がかなり普及するようになったことを考えれば、5年前の小室よりは現実味があった。


以上を確認した上で考えたいのは、ウツがなぜ吉本から離れなければならなかったかである。
そもそもウツは2002年の吉本移籍以来、セールス面で1万枚を超えた作品がなく、しかも若いミュージシャンと違ってブレイクが期待できるわけでもなかった。
吉本としてはウツの作品を出すことによるうまみはほとんどなく、TMのセールスに期待してソロも引き受けたというところだろう。


ところがそのTMも、2002~04年度の活動は寂しいもので、2004年度にはDVDを1商品リリースしただけだった。
そして周知の通り、2005年度にはTMの活動も関連商品のリリースもなくなった。
小室が2004年8月の段階で、次のTMの活動はゾロ目の年(デビュー22年目の2006年)と言っていたことから見て、この状況は2004年夏には確定していたと見られる。
TMの次の作品が吉本からリリースされたのは2007年である。


TMの継続的な活動が見込めなくなった時点で、吉本としてはウツ・木根のソロ作品だけを引き受けるメリットはほとんどない。
おそらく吉本はこの時点で、ウツとの契約条件を変更もしくは拒否したのではないか。
ウツは2001年までSONY、2002年までROJAM、2005年まで吉本から新作を発表してきたが、これ以後は特定のレコード会社との関係を持たなくなる。


この活動形態の変化はウツにとって重大事だったはずだが、すでに限界の状況にあった小室に、これ以上TMの継続的な活動の強要もできなかっただろう。
ここにウツは音源配信を中心とした新たな活動形態に移ることを決め、これをアピールするためのカンフル剤的な方策として、「Spin Off from TM」を企画したことが推測される。


なお以前触れた通り、2004年後半のウツはソロ活動の準備が当初の予定(5月頃から開始)から大幅に遅れ、秋のソロ作品リリースにも支障を来たす状況だった。
また6月のTMライブで披露された「Green Days」は、夏の段階では秋リリースの計画があったが、結局立ち消えになった。
詳しいことは分からないが、こうした事態の背後に、吉本との関係に関わる何らかの動きがあった可能性も考えて良いかもしれない。


さて、ウツは3月の「Slash!」リリースの後も、6月まで「Spin Off from TM」のメンバーを作家陣として、「Hold on blue」「Dawn Moon」「Lost Sky」を配信し続けた。
ところが7月配信の「21st Century Flowers」は、森雪之丞作詞、石井妥師作曲、土橋安騎夫・石井妥師編曲で、制作陣が大幅に入れ替わった。
土橋・石井は1992~94年のT.UTU with the BAND、石井・森は1995年のBOYO-BOZOでウツと関わっており、1996年に宇都宮隆のソロ名義で活動を始めた以前の関係者が、この時に集められたのである。


そして8/18には、この制作陣を含む新ユニットU_WAVEの結成が発表され、以後その名義による音源配信を行なうことが宣言された。
おそらくこのユニット名の語源は、「21st Century Flowers」の歌詞の「迷いを断ち切るように仲間のWAVEが響く BEATが人を繋ぐんだ」の一節だろう。


U_WAVEは以後2006年末まで1年半、月1回の音源配信を継続した。
さらにソロ名義も含めると、ウツは2007年8月まで2年間、ほぼ毎月音源配信を実行している。
それはちょうどTMの活動中断期に相当している。
2007年秋からはTMの活動再開に伴い楽曲配信が断続的になるが、2007年11月から2009年頃まではiTunesで、U_WAVEの野村義男と一緒にポッドキャスト「千夜一夜物語」を無料配信している(ただし2009年には頻度は激減していた)。


この時期のウツが配信した楽曲は、ある程度数がたまると、まとめてアルバムとしてリリースされた。
アルバムで一度に新曲を発表するのとは異なる活動形態である。
またウツは1992年のソロデビュー以来、毎年アルバムをリリースした上で、そのアルバムをひっさげた全国ツアーを行なうのを基本的な活動サイクルとしてきた(特に2000年以後)。
だが2005年からは、アルバムリリースと関係なくツアーを行なうようになる。
したがってこれ以後のウツの活動歴を見る場合、アルバムの持つ意味は小さくなる。
アルバムリリースを伴わずに全国ツアーを毎年開催する現在の活動形態は、この時期に淵源がある。


以後数年、ウツ関連のアルバムやライブDVDはインディーズでリリースされたが、これらはFCでの通販を主な販売手段とした(FC盤はしばしば先行販売されたり特典が付けられたりした)。
2004年にインディーズ版でリリースされたDVD「Tour wantok」と同様に、新星堂の店舗ではウツ関連作品を継続的に取り扱ったが、売上は限られただろう。
たとえばU_WAVEのファーストアルバム「U_WAVE」の成績は90位・1897枚となっており、数字の上では吉本時代の「wantok」「Overtone」から半分以下に激減している。
これは特典CDが付いたFC盤に売り上げが集中したため、実態以上に数字が減ってしまったのだろう。


以上を念頭に置いてウツのソロ活動を時期別に整理すれば、SONY時代の2000年までが第1期、ROJAM・R&C所属の2005年初めまでが第2期となり、2005年3月以後は2009年頃まで、音源配信を基軸に据えた第3期ということができる。
この時期はソロ名義のライブやtribute LIVEもあったが、活動の中心はU_WAVEだった。


U_WAVEはボーカルのウツに加え、T.UTUの時と同様に、土橋がキーボード、石井がベースを担当した。
作詞を担当した森は、ライブではポエムリーディングという独特な役割を果たしたが、これについては後述する。


他のメンバーとしては、ギター野村義男、コーラス日永沙絵子、ドラム小林香織がいた。
野村・小林は初参加だが、日永は1996年の「Tour easy attraction」、1997年の「E.A. Grandstand」、2004年の「Tour Overtone」にも参加している。
ウツは「Spin Off from TM」と同時並行で、それぞれのメンバーに一人ずつ会い、話をしたという。


森の参加は2006年まで、石井の参加は2008年までで、現時点(2020年)で最後の活動である2015年まで終始U_WAVEに参加したのは、土橋・野村・日永・小林の4人である。
ウツはU_WAVE結成以後、特に野村と仲良く付き合うようになり、ソロ名義の企画にも頻繁に招待するようになる。

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仲良しの2人


U_WAVEのライブで特徴とされたのは、曲間に森のポエム朗読の時間が挟まれたことである。
森はこれ以前、2003年に岸谷五朗と一緒に、ポエムリーディングを盛り込んだ舞台「POEMIX」を上演したが、ウツもこれを見に行って興味を持ち、音楽に取り入れたいと思ったという。
そこで森の参加が決まった時点で、これを実践することになったのである。


ポエムコーナーは後にはラジオ風の会話を流したり、コントを行なったりと、様々な企画を行なう時間になった。
2006年以後はピエロのエディもライブの演出に参加するようになった。
エディは2010年代には、U_WAVEに限らずウツ関係の様々なライブに出演している。


U_WAVEの最初のライブとなったのは、2005/9/23~11/13に開催された「Tour U_WAVE」である。
毎年秋にツアーを行なうという、それまでのウツ恒例の日程に従って開催された。
なおツアー日程が発表されたのは「Spin Off from TM」開催中の5月のことだったが、その時点では単にソロツアーとして発表されており、U_WAVE名義のライブであることが明かされたのはFCのチケット販売が終わった後だった。


このツアーの開始の時点で、U_WAVE名義の曲は、まだ7・8月に配信された「21st Century Flowers」「Dream House」の2曲しかなかった。
だがツアーでは未発表曲も含め、実に8曲のU_WAVE楽曲が演奏された。
新曲の演奏がほとんどなかった「Tour Overtone」と比べると、新曲への意気込みが感じられるが、観客からすれば6曲の未知の曲が演奏されたわけで、かなり戸惑ったことだろう。


旧曲の演奏は9曲あったが、これはすべてBOYO-BOZOかウツソロの石井作曲の曲であり、「Water Dance」から4曲、「Acrobat」から3曲、吉本時代の楽曲から2曲が選ばれている。
その点で過去曲の選曲も、U_WAVEメンバーを意識したものだった(土橋の曲を選ばなかった理由は不明)。
石井はライブで「Bye & Good Luck」のボーカルを担当するなど、かなり優遇されていた印象である。


実はU_WAVEは、ファンの間では必ずしも多くの支持があるわけではなかったのだが、ウツは翌年2・3月にホール会場でのツアー再演「Tour U_WAVE Reprise」を行ない、9/16~11/4にはツアー第2弾「Tour U_WAVE Second Theme」を開催するなど、U_WAVEでの活動を継続する。


この間、2006/4/26にはU_WAVE初のCDとして、シングル「Daydream Tripper」がリリースされた。
すでに「Tour U_WAVE」で演奏されていた曲だが、「シティハンター」の続編「エンジェル・ハート」のテレビアニメのエンディングテーマになった縁で、CDでのリリースが実現した。
なお「Dardream Tripper」は当初は「エンジェル・ハート」第13話のみで使われる予定だったが、後に第20~23話にも使われることになった(深夜アニメの世界はよく知らないのだが、1話ごとにタイアップが変わることもあるらしい)。


「Daydream Tripper」はアニメのタイアップがあったため、アニプレックスからのリリースとなった。
成績は46位・3800枚だった。
この時点での宇都宮隆名義の最後のシングルである「道」(2003年)の71位・3400枚と比べると、売上は変わらないが、順位はかなり高い。
ネット配信のシェア拡大によるCD市場の縮小を考えれば、まずまずの成績だったのかもしれない。


この間もU_WAVEはコンスタントに音源配信を続けていたが、2006年3月配信の「Happy Go Round」までの楽曲は、「Daydream Tripper」および2曲の未発表曲と合わせて、2006/9/6にアルバム「U_WAVE」としてCD化された。
また「Spin Off from TM」メンバーが制作に関わった2005年3~6月配信の4曲も、FC盤のみの特典ディスク「SOLO SIDE from SPIN OFF 2005 MAR to JUN」として収録された(なおこの4曲は、「Tour U_WAVE」のパンフレットの付録としてすでにCD化していた)。


さらに「U_WAVE」と同日に、2ndシングル「In This World」もリリースされる(ともにM-tresからのリリース)。
「Tour U_WAVE Second Theme」は、このアルバム・シングルをひっさげての公演となった。
なお「In This World」のジャケットを見ると、愕然とするほどセンスがない。
製作費用が様々なところで削減されていたのだろう(本気でスタッフ自作を疑っている)。


U_WAVEの活動は本ツアー終了後、2006/11/29「My Missing Rose」の配信を以てしばらく休息に入る。
2006年4月以後の配信楽曲については、しばらくアルバムにまとめられることはなかった。
12/27には宇都宮隆ソロ名義で「Get On Your Express」が配信され、以後翌年5月まで6曲のソロ楽曲が配信されるが、この件については次章で触れることにする。


U_WAVEの活動がひと段落した後の2007年は、ウツソロ15周年の年だった。
ウツは2002年のソロ10周年では、アニバーサリーイヤーとして秋ツアー「Tour Ten To Ten」でソロの歴史を振り返ったが、2007年はソロツアーは開催されなかった。
この年の下半期には、TMのレコーディングやライブが開催されたため、ウツはソロの予定をあえて入れなかったと考えられる。
上半期にもtribute LIVE第3弾「Spin Off from TM 2007」が開催されたため、ウツソロ15周年企画を大々的に行なう余裕はなかった。


その中で細々と開催されたのは、TMのライブが終わった後の12/9~27に6日間行なわれたツアー「Solo 15th Anniversary」である。
これは少々特殊なツアーで、ホテルを会場とするディナーショー形式だった。
年内に本格的な全国ツアーの準備を行なう時間がなかったので、豪華で特別な感覚を味わえるイベントを年末に数本開催したわけである。


ウツは2006年に初めて年末ディナーショーを開催しており、このツアーは実質的にその拡大版だった。
サポートは2006・07年ともに土橋・石井と山田亘・是永巧一である。
また2007年の東京公演のみ、葛城哲哉が参加した。
これら5人は、かつてのT.UTU with The Bandのメンバーでもある。


ウツの15周年記念企画としてはもう一つ、デビュー記念日2007/11/21の「Takashi Utsunomiya 15th Anniversary Memorial DVD BOX」のリリースがある。
1992年の「Flowers」から2005年の「Tour Overtone」までのウツソロDVD15枚をまとめ、さらに商品化されていなかった2000年の「Tour White Room」のライブDVDを加えたものである。
ただし「Tour White Room」はもともと商品化の予定がなかったようで、収録されたのは資料用の定点カメラ映像だった。


以上が2005~07年のウツの動向だが、今一人、木根尚登の動向についても触れよう。
木根は2005/3/12~27上演の劇団IOHの舞台「家族対抗歌合戦」で、舞台役者として初めて登壇した後、「Spin Off from TM」開始日の4/8に合わせて、シングル「My Best Friend」をリリースした。
また「Spin Off from TM」が終わった後の5/26~6/26には、本シングルをひっさげたツアー「talk & live 番外編 vol.5」を開催している。


「My Best Friend」については前章で触れたので割愛するが、これは実に1998年の「永遠のスピード」以来、7年ぶりのシングルリリースだった。
木根は1998年以後、新作はミニアルバムしかリリースしてこなかったが、2005年からはシングルとフルアルバムのリリースを行なうようになる。


ウツがR&Cから新作を出さなくなった2005年度以後も、木根はR&CからコンスタントにCD・DVDをリリースし続けた。
木根のCD売上はウツ・TMよりも低く、たとえば吉本期のミニアルバムの売上は、ウツの「Overtone」が4400枚、木根の「Ci e` la musica due」が1200枚だった。
それにもかかわらず木根がR&CからCDリリースを継続できた事情はよく分からないが、悪条件でも受け入れてR&Cに残ったためだろうか。
ウツが音源配信を中心とする新たな活動形態に舵を切った後も、木根はそれまでの活動を踏襲することになった。


木根は10/26、「My Best Friend」を含むフルアルバム「Life」をリリースした。
「Life」「Spin Off from TM」の頃から制作に入っていたらしい。
アレンジは、木根のライブでギターのサポートを務めていた中村修司が担当した。
以後木根は2007年「道」、2008年「New Town Street」と、アルバム3作を中村と作り続けた。


なお木根は2002年の「Running On」で全曲の作詞・作曲を手掛けていたが、2002~03年の「ci è la musica」「ci è la musica due」では小室みつ子・西脇辰也など他の作家にも作詞・作曲を依頼した。
しかし「Life」以後は、ほぼすべての曲を木根が作詞・作曲するようになる(例外はある)。
楽曲制作体制を見ると、2005年は木根にとっても活動の一画期だったことになる。


「Life」の当初の構想はカバーアルバムだった。
2004年のソロツアー「talk&live 番外編 vol.4」でカバー楽曲の演奏があったのも、これと関わるのかもしれない。
実際に出来上がったものは大半がオリジナル曲だったが、井上陽水「帰れない二人」のカバーが入っているのは、当初の企画の名残だろう。
また渡辺美里「こぶし」や日置明子「Clover」など、自作曲のセルフカバーも収録されている。
オリジナル曲では、「6月6日」は同年死亡したユンカースの命日を歌ったものである。


2005年11~12月には「Life」をひっさげた全国ツアー「talk & live vol.9」が開催され、翌年にも「talk & live 番外編 vol.6」「talk & live vol.10」が開催された。
2006年12月の「talk & live vol.10」は、1997年に続く木根のライブDVD第2弾としてリリースされているが、なぜこれが商品化したのかはよく分からない。


2007年は木根にとって、ウツと同じくソロデビュー15周年のアニバーサリーイヤーだった。
木根はこれを見据えて、2006年秋頃からニューアルバムの制作に入る。
2007/4/4にリリースされたこのアルバムのタイトルは「道」と言ったが、これはアルバムのテーマでもある。
アルバム1曲目の「君への道」はこのテーマを浮かび上がらせた曲で、20歳になる娘の沙織にささげた曲だという。
ネタ元は吉田拓郎「花嫁になる君に」らしい。


2007年の木根は、50歳にちなんで年間ライブ50公演を宣言した。
これは2003年、46歳の時に年間46公演を行なったことの焼き直しだが、年をとってもコンスタントに活動を続ける意欲はうかがえよう。
50本ライブの中心となったのは、元旦から始まった「talk & live 番外編 vol.7~ここにある未来~」で、実に9カ月にわたる長期ツアーだった。
なおツアータイトル「ここにある未来」は、「道」の収録曲名である。


ツアーのハイライトとされたのは2007/9/28、50本目に当たるファイナルの日本青年館公演である。
これまで「talk & live 番外編」は、バンドを引き連れず1人か2人で小規模な会場を回り、アコースティックライブを行なうというものだったが、この時はそれを日本青年館という中規模のホールで行なったのである。
ここは1985年のTM初の全国ツアー「Dragon The Festival Tour」の最終公演の会場でもあり、木根としては感慨深いものもあっただろう。
このライブの様子も、翌年DVD化された。
さらに年末12/21・22にはSHIBUYA DUO Music Exchangeで、ソロ15周年記念ライブ「talk & live 15th Anniversary SP」が開催された。


ツアーが終わった後の10/10には、シングル「ノックは3回~Knock Three Times~」がリリースされる。
これはNHK「みんなのうた」で流されたもので、木根としては会心のタイアップであった。
本来は「道」に収録予定だったが、NHKで採用されたため、シングル用にしてアルバムには入れなかったという。
このタイアップは、木根ソロ15周年を飾る出来事となった。
成績は122位・601枚と振るわなかったが、以後この曲は木根の代表曲の一つとなった。
なお「ノックは3回」の曲名の典拠はTony Orlando & Dawnの「Knock Three Times」だろう(同曲の邦題も「ノックは3回」である)。


木根の音楽活動としては以上の他に、楽曲提供があった。
木根は1995年から日置明子を継続的にプロデュースした他、1990年代後半には小室関係者の楽曲を制作することが多かったが、21世紀になると独自の動きを見せるようになる。


その中でも成果を上げたのがアニメ声優の椎名へきる作品で、2001年の「Jungle Life」以来、2004年まで、楽曲提供にとどまらず、継続的なプロデュースも行なった。
シングル作品はチャートで20位前後に入り、それぞれ1万枚以上の売上を達成している。


木根がプロデュースしたアルバムは3枚に及び、特に最初の「Sadistic Pink」(2002年)は2.2万枚を売っている。
この数字はアルバムの売上が1000枚程度だった木根ソロと一桁違う。


なおへきる関係楽曲の作詞には、小室みつ子や井上秋緒の名も見える。
また2002年初め(2001年度)までの楽曲はROJAM時代のプロデューサー体制下で制作され、久保こーじらの中堅工房も制作に関与した。
だがROJAM体制が機能を停止する2002年度以後になると、中堅工房との関係はなくなった。


へきる以外の木根の提供楽曲としては、2004/9/23リリースの「雨あがりの天使」がある。
アニメ「ネギま!」の雪広あやかのキャラクターソングである。
このシングルは9位・3.1万枚の成績を上げており、同年の13位・2.8万枚のTMのシングル「NETWORK™」を上回っている。
意外なことに2004年の木根は、2003~04年の小室よりも売れる曲を作っていたのである。


このような状況を考えれば、TMの活動がなくなった時点で木根が提供楽曲のアピールを行なうのも自然な流れだった。
「Life」に過去の提供楽曲のセルフカバーが収録されたのは、その流れとも考えられる。


「Life」リリース翌週の2005/11/2には、木根の提供楽曲を集めた作品集「Handmade Gallery -The Best Works of Naoto Kine-」がSONYからリリースされた(収録楽曲はレーベルを横断)。
本作には「Jungle Life」「雨あがりの天使」の他、TMの「Time Passed Me By」「Girl Friend」「Fool On The Planet」やSPEEDWAYの「彼方より」も収録されている。
ただこの後、木根の楽曲提供で見るべき成果を上げるものはなくなり、結果として本作は提供楽曲集のベスト盤に近いものとなった。


最後に触れておきたいのは、2006年に椎名へきると結成したアコースティックユニット「ひだまり」である。
ひだまりは4/26にシングル「Size Up」をリリースし、5~6月に東名坂ツアー4公演を開催した。
木根とへきるの関係は、プロデュースが終わった2004年で切れたわけではなかったのである。
木根はへきるとの関係に、TM・ソロ以外の可能性を見出していたのかもしれない。


ひだまりの活動成果はあまり思わしくなく、「Size Up」は58位・2600枚の成績に終わり、以後新作はリリースされなかった。
ただし木根は2006年年末のへきるライブにゲスト出演している。
また2015年にはへきるFCのデビュー20周年記念イベントとして、ひだまりのライブが行なわれている。

Handmade Gallery~The Best Works of NAOTO KINE~
Handmade Gallery~The Best Works of NAOTO KINE~

この記事へのコメント

haru
2020年08月16日 21:17
otonanoサイトの関係者へのインタビュー記事、毎回楽しみにしていますが個人的にはアートディレクター・高橋伸明さんの回が興味深いです。アルバムジャケットなどアートワークについてのインタビューって今までそう無かったのでは?

 ただ管理人さんも以前Twitterで呟いていましたが、インタビュアーがねぇ…。特に高橋さんの回は途中ムッとされていたんじゃないかと記事を読みながら感じました。
ちょこぺこ
2020年08月16日 23:46
過去のSPINOFF関連、知らないこともあり興味深く拝見しました。あの時期は付かず離れず追いかけといった感じで円盤は買ってはいたんですが。ある意味小室さんに振り回されていたのかな〜音楽以外でも。
2020年08月17日 07:16
この辺りから本格的に音楽はCDより配信がメインになっていった感じですね。
ウツソロ関連の新譜CDが入手困難になってファンクラブ限定と新星堂のみの取り扱いというパターンが増えた気がします。
木根さんのCDも店舗での入荷自体が殆ど無く、Amazon等の通販で買うのが当たり前になっていきました。
椎名
2020年08月20日 11:33
このあたりからでしょうか。
ウツのファン層がかなり狭まった印象を受けたのは。
こういった差し迫った事情なら納得だなと思いました。
例えば、元BOOWYの氷室京介やユニコーンの奥田民生など、
人気バンドのボーカリストはソロでも一定の認知度があるのですが、
ウツはTMファン以外からの認知度が薄いと思いませんか?
最も過小評価されているボーカリストのような気がします。
「少年」がスマッシュヒットし、
さあ、これからがウツの時代だ、と思ったら、次作で早くも小室作品。
やや路線を誤ったまま、現在に至ってしまった感があります。
後年につんくや尾崎亜美などとタッグを組みましたが、
これを「少年」以降にやっていればなと考えてしまいます。
やまびこ
2020年08月21日 21:35
この時期のウツキネのCDセールスはかなり少なかったんですね。私は当時キネのFCに入っていましたが、FCでの先行発売などもあったと記憶しています。確か、「浮雲」と「徒然」は、1枚で十分な集力内容なのに、わざわざ2枚に分けて、収納場所を増やしてしまうじゃないかと不満でした。あと、セールス的には最悪だったのでしょうけど、この時期のソロ曲は割と好きでした。売れるかどうかは、曲の善し悪しよりは、売るテクニックによるのかなとも思いました。あと、MTR以降、キネのライブではCD手売(サイン)会が恒例行事になっていったように思います。売ることに必死だったのだろうと思います。「Ci e` la musica due」が1200枚、というのは、おそらく、その時期のツアーがなかったのかなと思いました。その点、ウツは、手売りがなく、ディナーショーでの握手の価値をお高くすることに成功したのかもしれません。ところで、長らくご愛顧頂いていた、yamabikoのTwitterアカウントを削除しました。しばらく時間をおいて、新規アカウントで出直したいと思いますので、また宜しくお願い致します。
たーぼS
2020年08月21日 22:52
TK+アイドルグループとしては、TPDの「ダイヤモンドは傷つかない」はなかなか良い線ではなかったかと思うのですが、5-3でタイトルだけしか触れられていないというのは、そういうことなのですよね(^^;
青い惑星の愚か者
2020年08月22日 17:13
>haruさん
otonanoのインタビューの人選はなかなか良いと思いますよ。
高橋さんのお話を聞ける機会なんてこれまでなかったし、小坂洋二さんのインタビューなんて一番聞きたかったところです。
インタビュアー問題はホントに残念ですね。まあtwitterで取り上げたところは冗談ぽく言ったところなのかもしれないですけど。


>ちょこぺこさん
SPIN OFFについてはTMの公式的な活動ではないので、後に振りかえられることも少なくて、あまりよく分からないことが多いです。
ウツも木根さんも、本当はTMを継続的にやることを前提に吉本に移ったはずなのに、全然でしたもんね。
まあ事態はすでに小室さんの能力を超えたところもあったから、3人ともどうしようもなかったんだと思います。


>秀さん
配信の位置が大きくなってくるのは音楽業界全体がそうでしたね。
そして今後触れますが、TM復活のきっかけになったのも音源配信でした。
ウツ木根のCDはもう店舗では見かけませんでしたね。
その意味でも、配信・通販に軸足を移しても大きな変化は実はなかったのかもしれません。


>椎名さん
ウツファンの精鋭化はかなり前からという印象はありましたけど、この頃になると広がりはまったく感じなくなりましたね。
数名規模ではあったのかもしれませんけど(少し後だとSound Horizon経由とか)。
ウツの認知度は特にこの頃は低かったですね。
むしろ2010年代になってからは、TMの再評価が進んできたように感じますが。



>やまびこさん
アカウント切り替えるんですね。新アカ作ったら教えてくださいませ。

木根さんはソロデビューの頃もミニアルバムだったし、実はミニアルバムくらいの規模が一番やりやすいのかもしれません。
私はソロ楽曲聞きこんでないんですけど、cie la musicaなんかは評価高いですよね。

cie la musica dueの時はたしかに年末ライブだけでツアーはなかったので、宣伝の機会は少なかったでしょうね(ツアーに来る人はたいていCDを持っているような人じゃないかとも思いますが)。
ただ2002年のRunning Onとcie la musicaは記録がありません。2003年から100位以下も記録するようになったようで、173位のcie la musica dueの記録も分かるんですが、2002年の作品もそんなに売れてたわけではないと思われます。

ウツはCD手売りがなく、だからディナーショーの価値が高まったというのは面白い考察ですね。たしかにそうした側面もあるかもしれません。


>たーぼSさん
TPDはたしかにそんなに悪くはなかったですね(特に好きなわけじゃないですけど)。小室さんの場合、音に負けないくらいボーカルが際立っている方が合うように思います。TPDはそこらへんは合っていたのかもしれません。
haru
2020年08月25日 15:44
明日発売のBlu-ray2枚が届き、とりあえずDECADEのCrazy For You~Think Of Earthの部分を見ました。

 マスターテープの2Dフルカラーに差し替えBlu-ray用にリマスターしたので、従来の赤青メガネが必要な3Dより見やすくなりました。(当たり前なんでしょうが。)

 宇都宮さんの演技や女性とのカラミを鮮明な映像で見たいとか、乗っている車や使われている小物など細かいことも知りたい、という人にはおススメしますが…。
haru
2020年08月25日 16:00
連続でスミマセン。

 Blu-ray2枚ともブックレットには藤井徹貫氏の文章が載っています。DECADEは最初にVHS等で発売された時と全く同じですが、All the Clipsは今回新たに書き下ろしたものです。

 相変わらずの文章でした…。
青い惑星の愚か者
2020年09月05日 02:11
3D Pavilion、今回のBlu-rayで唯一気になっていたところでした。
レポートありがとうございます。
私はやっぱり買いませんが。
ブックレットの文章も価値はないようですし(笑)。

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